I am a slave to my passion.

食欲、物欲、独占欲、その他もろもろ。欲望は日々を生きるエネルギー(たぶん)。東京在住編集者のにっき。読書の記録なども。

「その手をにぎりたい」柚木麻子

読み始めたら止まらなくなり、通勤のメトロで読んでたら、なんと今度は涙が止まらなくなり、泣きはらした顔で出社するハメになった1冊。

小説で泣いたのは何年ぶりのことだったっけ。

 

80年代の東京で暮らす女性が、銀座の寿司職人に寄せる想いを丹念に綴った恋愛小説としても、バブル時代の東京を描いた都市小説としても、とてもいい1冊だった。

お皿に置くとシャリのデリケートさがダメになるからっていう理由で、職人の手から客が直接寿司を受け取って口に運ぶお店が舞台なんだけど、考えたら、男の手から受け取った食べ物をそのまま口にって、結構色っぽい感じしますよね。

しかも、その手の主は硬派な職人カタギの男性。

この設定だけで、恋愛小説としては成功といっても過言ではないでしょう。

ヒロインの青子の肩肘張った生き方は、地方出身で、東京に何らかの期待をして出てきた女性なら、時代は違っても、ああ、と、どこかで、認めたくないけどわかる部分がありそう。帰る場所はあるけれど、帰りたくない。だから頑張るしかない、という、退路はあるけど見えないことにしとく感というか。

女と男

女と都市

女と年月

小さな寿司を通して、結構この小説、大きくて重たいことが描かれてます。

私個人としては、その中で特に恋愛小説としての側面に一番惹かれました。好きな人に対して臆病になる勝気な女性、という王道のヒロイン像、最近の小説やドラマではあんまりお目にかかってなかったな、やっぱり好きって感じで。

いい恋愛小説読みたいなって言われたら迷わず薦めます!

 

以下余談ですが、向田邦子の小説「隣の女」で、男が街角で甘栗を買って連れの女の口の中に押し込んで食べさせるシーンがあるんだけど、あれも相当エロせつないシーンだと今は思う。初めて読んだ中学生の時は、歩きながら男にものを食べさせてもらうなんてペース配分難しそうだし、キレイなラブシーンでもないしなんだかなあって感じがしてそんなにドキドキしなかったんだけど。ちょっと読み返したくなってきました。

その手をにぎりたい

その手をにぎりたい